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2022-04-12

読了 "E poi saremo salvi"

“E poi saremo salvi” di Alessandra Carati
(Mondadori 2021)

 
 
こちら、今年のストレーガ賞にアンドレア・ヴィターリが推薦していた本で、興味があって購入していたところ、ノミネート12作品の中に残りました。

読み終わったのでご紹介。タイトルは直訳すると『そうして私たちは助かるだろう』

〜あらすじ〜
ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の勃発で、突然故郷のボスニアから逃げ出さなければならなくなった六歳のアイーダは、妊娠中の母とともに命からがら父の働いているイタリアへと辿り着き、無事家族揃ってミラノで新しい生活を始める。しかし、安全が確保されたからといってそう簡単に家族に幸せが訪れるわけではなかった。いつかは故郷に帰りたいと願い、イタリアの文化に同化しようとしないムスリムの両親。そんな親を頭では理解しつつも、自分はイタリア人の若者のように暮らしたいと願ってしまうアイーダの葛藤、そしてボスニアを知らずに生まれた自由気ままな弟。家族の間にはしだいに溝が生まれ、それはいつしか修復できないほどの裂け目となってしまう。救いの道は、どこにあるのか。紛争が終わっても、家族の心の傷は、癒えるどころか深まっていくばかりで……’92、’02、現在、と10年ごとの区切りで、主人公の成長と家族の葛藤が描かれていく。

タイトルは、主人公が母とボスニア脱出を試みた際に、疲れ切った状況で母が言ったセリフ「国境さえ越えれば、私たちは助かる」から。

***

物語の内容は、とっても重たい。面白い、って言っていいのかな?だけど、とにかく先が気になってページを捲る手が止まらない、そんな本でした。

主人公たちは小説の中で、紛争の凄惨な現場を直接的には体験しません。そんな、ある意味では幸運な状況にあった大人たちですら、精神をじわじわと蝕まれていく。その様子が、今も世界で起きている戦争の恐ろしい一面として読み手の心に突き刺さります。そしてその大人たちの影響はもちろん、一緒に暮らす子どもたちにももれなく暗い影を落とし、思いがけない形で問題となって現れてきて……

最後の最後まで、先が読めません。救いはあるのか、ないのか。


それと。
個人的に、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争のこと、知らないわけではないですが、だからと言ってしっかり勉強したわけでもない世界でした。
一言では到底説明できない民族間の軋轢、ジェノサイド、難民となった人たちのこと……なんとなくの知識だったものが、こういった本を読むことでやっとほんの少し自分のものになる。
やっぱり小説の力ってすごいなと思います。

しばらくのあいだは、思い出すたびに気持ちがずーんとしそうです。
でも、賞を取るかどうかにはかかわらず。民族紛争について考えるきっかけとして、日本人にも読んでほしい本でした。
 

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