ページ

2021-02-10

終戦直後のイタリアで本当にあったお話『子供列車』

本日のテーマは「子供列車」。

この列車のこと、ご存知ですか?




第二次世界大戦終結間もないイタリアで、子供たちを貧しさから救うために行われたのが「子供列車」です。
共産党の女性連合が中心となって行ったこの活動は、戦争で壊滅的な被害を受けたイタリア南部に暮らす貧しい子供たちが寒く厳しい冬を無事越せるようにするため、比較的余裕のあった北イタリアの家庭に受け入れ先を用意するという、いわば一時的な里子運動でした。
彼らの尽力によって、実に7万人もの子供がこの「子供列車」に乗って南から北へと移動し、命を救われたのです。もともと南北格差のあるイタリアで、さらに戦争の影響もあってボロボロになっていた南部から列車に乗り、被害の少なかった北部の町へと降り立った子供たちは、そこで目の当たりにしたあまりの生活水準の差に愕然としたそうです。ですが、「助け合うのは当然のこと」という共産党の人たちの見返りを求めない純粋な愛は子どもたちにも伝わりました。こうして第二の家族との幸せな数ヶ月を過ごしたのち、多くの子どもたちは南部へと戻り、またある子どもたちはそのまま彼らと本当の家族となって北部に残りました。

ところが、7万人もの子供たちがこの「列車」を経験したにも関わらず、その歴史はつい最近までほとんど忘れられていたというから驚きです。
いったいなぜ?と思いますが、その理由を探っていくと、思いがけず重い事実が浮かび上がります。「列車に助けられた」と言うことはつまり「自分は貧しかった」と公言するようなものなのです。子供たちは北部で幸せな生活を体験したからこそ故郷南部の貧しさに対する羞恥心を覚え、結果、多くの子が列車に乗った過去を自ら封印した…ということがあるようなのです。

しかしごく最近になって「子供列車」の事実が社会的にピックアップされたことにより、イタリアの人たちは、かつて辛い時代にこのような無償の愛があったことを知ることになったのです。
そしてそこからいくつかの本が生まれました。

写真左の小説 ”Il treno dei bambini” di Viola Ardone (Einaudi,2019)
『子供列車』ヴィオラ・アルドーネ著
写真右の絵本 ”Tre in tutto” di Davide Calì e Isabella Labate (Orecchio acerbo,2018)
『ぜんぶで三人』ダヴィデ・カリ作/イザベッラ・ラバーテ絵


小説のほうの著者は、関係者との交流の中で「その体験を恥じる必要なんてない、もっと知られて良いことだ」という思いが募り、独自に調査をした上で小説を書いたそうです。出版前から25カ国で版権が売れたという話題作でした。(日本でもいつか出るんでしょうか…?)
絵本は、2019年の国際推薦児童図書目録『ホワイト・レイブンズ』に選出されました。

どちらの作品も主人公はの男の子。子供列車に乗ることが決まり、「自分は母に捨てられたんじゃないか」「共産党に売り飛ばされるんじゃないか」等、子供ならではの恐怖心と戦いながらも、実際列車に乗る他に選択肢はなく、出発していきます。そして迎えられた土地で色々な人の様々な形の愛を知り、夢のような滞在期間を経て、また故郷へ戻る時がきて…

小説では、少年の葛藤(=貧しさからの脱却とは今までの生活を否定することにほかならない)に重きを置いた物語になっています。どうしたらいいんだろう、どうしたら。考えて、考えて、でも最後は勢いで行動した少年の決断が泣けます。

それと比べると絵本のほうは、どちらかというと“かつてイタリアにあったある素晴らしい愛(共産党というイメージだけで嫌がられた人たちが行った無償の救済行為)”を語り伝えて、「今の私たちにそういう愛はあるか」ということを問いかけてくるような内容です。



 

どちらも素晴らしい本です。

ちなみにアドゥローネの『子供列車』は、この春から日伊協会の講座で原書を読むクラスがあります。私は時間帯的にどうしても無理で、本当に残念!受講できる方が羨ましい〜

0 件のコメント:

コメントを投稿

最新の投稿

『命をつないだ路面電車』

暑い時期になりました、若いみなさんは夏休みですね、いかがお過ごしでしょうか。 戦争について考えることの多い夏、じっくり読んでいただきたい本が出ました。 関口英子先生との共訳で、小学館さんから発売中です。 ======================= 📚 『命をつないだ路面電車...