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2024-07-28

『命をつないだ路面電車』




暑い時期になりました、若いみなさんは夏休みですね、いかがお過ごしでしょうか。

戦争について考えることの多い夏、じっくり読んでいただきたい本が出ました。

関口英子先生との共訳で、小学館さんから発売中です。



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📚『命をつないだ路面電車』📚

著:テア・ランノ 

訳:関口英子 山下愛純

小学館 2024年7月15日刊


”Un tram per la vita” di Tea Ranno, 

basata sulla storia vera di Emanuele Di Porto

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舞台は1943年、第二次世界大戦中のイタリア・ローマ。

みなさんはこの年10月16日未明に、ローマ市内のゲットー(ユダヤ人居住地区)で起きた、ナチスによる大規模なユダヤ人連行「ローマ襲撃」をご存知でしょうか。

1023名が連行される大混乱のなか、お母さんの機転によってナチスの手をのがれたひとりのユダヤ人少年がいました。

少年は夢中で路面電車に飛び乗り、車掌さんをはじめとする市井の人々の助けをえて、二日半、電車のなかで追っ手の目をすり抜け、命をつなぎます‥‥

実際にあった出来事をベースにしたお話です。

主人公のエマヌエーレ・ディ・ポルトさんは今もお元気で、戦争体験の語り部として、活動しておられます。

日本でも出版されたこと、喜んでくださるといいなあ。





よみどころ

📝前半は、たくさんの人がいる「電車内」という環境で、ナチスはもとより、ファシストたちの目にも怯えながら、少年が乗客の会話に耳をすませて外の状況を把握するというハラハラのシーンがつづきます。


後半、命は助かりますが、家に戻ってみると大好きなお母さんは連行されてしまっており、残された家族を支えるため、危険な町にでて働かざるを得ない、辛い状況が続きます。それでもいつかお母さんが戻ってくると信じて、いつも前向きに行動する少年の生き様に、心を揺さぶられます。


📝当時のイタリアは、ファシスト政権の興亡と敗戦、ナチスの侵略と連合軍の侵攻、そして市民によるレジスタンス運動と、すべてが複雑に絡み合い、一言では説明できないようなややこしい状況でした。

大人になってさえなかなか深く知る機会のない他国の歴史ですが、そんな知識がすっと頭にはいってくるのも、物語ならではの良さかなと思います。


また、訳者あとがきにも書いているのですが、ナチス占領下のユダヤ人の暮らしとして、みなさん真っ先に浮かぶのは、何年も隠れ家で過ごしたオランダのアンネ・フランクではないかと思います。本書を読んでいただくと、イタリア南部ではどうだったの?ということも、おどろきとともに、知ることができるのではないでしょうか。

(イタリア北部はまた状況が異なるので、興味が出てきた方はいろんな本を読んでみて欲しいです。)


なにより、戦争や差別にたいして憤りを覚え、自分にできることをさがして行動した人たちは過去にもいたこと。戦争を憎んでも決して個人を攻撃しないエマヌエーレさんの人間性の素晴らしさ。大人の方にもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。


そしてこれは特筆しておきたい〜!

巻末に、エマヌエーレ少年が二日半乗っていた市内循環の路面電車のルートも地図にして載せています。(日本語版のみ!)

ブックデザインは鳴田小夜子さん、爽やかなイラストはカシワイさん。

この夏、ぜひ、お手に取ってみてください。


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