と、書こう書こうと思っているうちに、もう1月も最終日。あわわ
この本、もう話の先が気になって気になってページを捲る手がとまらなかったのですが、「おもしろい」というのが憚られるというか、新年一発目の本としてはあまりにも切なく、胸を掴まれたような痛みを覚える一冊でした。
"Orfani bianchi" 「白い孤児たち」
Antonio Manzini(アントニオ・マンツィーニ)著
Chiarelettere刊 2016年
256ページ
<あらすじ>
舞台はローマ。主人公ミルタはモルドバ共和国からやってきた出稼ぎ労働者。住み込みの介護家政婦をしながら、故郷に残してきた年老いた母と愛する一人息子イリーに仕送りをしている。どんなに一生懸命働いても、家族の生活は苦しいままだが、それでも「いつか再び息子と一緒に暮らす」という希望をもって必死に日々を送るミルタ。しかしある日、突然雇い主から解雇を言い渡されてしまう。なんとか掃除の仕事を見つけるも、家政婦よりももっと辛い仕事なうえに薄給で絶望しているところに、さらに追い打ちをかけるように故郷の母に不幸が襲いかかり、息子がモルドバで一人残される自体となってしまう。息子の世話を頼めるつてが全くないミルタは、「子供を孤児院に預ける」というとても辛い決断をしなければならなくなる。嫌がる息子に「必ず迎えにくるからしばらくの間だけ我慢して」と言い聞かせ、身を切られる思いでローマにもどるミルタ。でも、いったいどうしたら息子とローマで暮らせるだけの稼ぎを得られるのかと途方に暮れているとき、ある大金持ちの家で、超高給な住み込み家政婦の仕事の募集が出る。これまで一つの罪も犯さず働いてきたミルタは、この時初めて少しの嘘を使って、なんとかこの仕事を自分のものにするが、そこで待っていたのは…
タイトルの「白い孤児たち」というのは、親がいるけれど事情があって一緒に暮らせず孤児院に預けられる子供たちのことだそう。
「大切な家族を放り出しておいて必死に赤の他人の世話をする人生だなんて、いったい何の意味があるんだろう」とミルタは度々自問して苦しい思いをします。それでも、とにかく息子ともう一度一緒に暮らしたい、という思いだけを支えに前へと進もうとする。
読んでいて、つらい。どうか彼女が報われますように、と祈るような気持ち。どんな結末が待っているのか、とにかく本を閉じることが出来ません。
そして物語の最後にはものすごいどんでん返しが!うーん、書きたい!
でも、もしこのブログを見て「Orfani bianchi」を読んでみようと思う方がいたらネタバレになってしまうので、がまんがまん…
とにかく、ひとつ言えることは、この本に出てくるイタリア人にいい人はいない、ということ。
みんな外国人(移民や出稼ぎの人たち)を見下していて、虫けらをみるような目で彼らを見、そして面とむかって馬鹿にします。でも、実際のところ、イタリア人は外国人の労働力に助けられて生きているという現実…。
それから、たとえ権力やお金をもったイタリア人であったとしても、年老いて介護を受ける側になったとたんに身内から邪魔者扱いされ、人間としての尊厳を奪われる可能性があるという現実。そしてそんな彼らを介護して生計を立てているのは外国人労働者で…という皮肉を、マンツィーニはとても上手く書いていると思います。
→例えばバスの中で「ローマもすっかり外国人だらけになっちゃってやだよまったく」と公然と悪態をつくおばあちゃんとか、ミルタの目を通して描写されると本当に嫌悪感しかないですが、そういう人はなにも誇張でなく実際いるわけで、イタリア人読者からすると「痛いところを突かれる」というか、真面目なイタリア人なら読んでいて結構辛いんじゃないかな。
移民や外国人労働者の問題は今やイタリアのみならず世界中、もちろんこの日本でも起きていることで、ストーリーを日本に置き換えて読んでみても十分にリアリティーがあります。私たち日本人も、作中のイタリア人を簡単に「ひどい人たちだ」と言いきれない。自分のなかにもしらずしらず潜んでいるかもしれない差別意識を思うと、恐ろしくなります。
ところで、話はすこしそれるかもしれませんが、この本を読んでいるあいだ私がずっと考えていたのは、「不幸しかない人生を生きるとしたら、それってどういうことなんだろう」ということでした。どんな人でもその命の重さは平等で、意味のない存在である人は一人もいないと思いたいのですが、地球上にはこの一瞬にも70億の人がいて、70億通りの人生があることを思えば、確率的に言ってその中に生まれてから死ぬまで本当に本当に不幸しかない人っていうのは実際存在するのかもしれない。だとしたら、その人が苦しみながら生きることの意味はなんなんだろう、と、上手くいえませんがなんか哲学的なことを考えてしまい、その見ず知らず人のことを思って、なぜかずっともやもやした気持ちでいました。はい。
ちょっと話が暗くなったのでここらで小ネタを差し挟んでおきますと、ミルタの故郷モルドバって、あの「恋のマイアヒ」で大ヒットした、グルーブO-zoneの出身国であります。
ということで、この本、東欧の寒い感じがじわっときて、不幸な人と辛い人がたくさん出てくる全体的にツラいお話ですが、読ませる文章で諷刺がきいてて、悲しくも美しい。「むむ、やるな!」って感じ。おススメです。
なお、著者のアントニオ・マンツィーニについて少し触れておきますと、彼はもともと俳優さんで、日本でも(イタリア映画祭で)公開された『そんなのヘン!(Non e' giusto)』(2001年)とかに出ていた人なのですが、10年ほど前から小説を書きはじめて、今では「作家業一本でやっていきます」と宣言しています。今現在、私の一番好きな作家さんです。いつか訳してみたい…そう、いつか訳してみたい作家さんです!大事なことなので二度言いました。
代表作はロッコ・スキアヴォーネ警部シリーズで、これがとにかく大ヒットしていて、今6冊まで出ています。こちらの感想もまたおいおい。
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2020年2月27日追記
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なんと!東京創元社さんから明日2月28日、この↑ロッコ・スキアヴォーネ第一作目が翻訳刊行されますよっ!!!
版元HPより 紹介文
「汚れた雪」アントニオ・マンジーニ作/天野泰明訳
“ 不祥事がもとでアルプス山麓の小村に飛ばされた警察官、荒っぽく目的のためには悪に手を染めることさえ辞さない、しかし事件解決には燃えるロッコ・スキャヴォーネ登場!”
みなさん、買いましょう!
“ポスト・モンタルバーノ警部”との呼び声高い、イタリアの大ベストセラーです!
東京創元社さんのHPから試し読みできますよ〜☆
実は私もこの本の原書の企画書を書いたことがあって、試訳もしたのですが…
警察モノの小説の独特な(ハードな)感じ、まだまだ修行が足りないことを実感しました。
未練もありつつ(なんていうのも自分の実力を無視してておこがましいですが💦)、純粋に読者として楽しめるのも、それはそれでまた嬉しいですね。
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