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2020-09-03

マルコ・マルヴァルディ「Odore di chiuso (密室の香り)」

 9月になって、ほんのり涼しさを感じる瞬間が増えました。

お庭のバジルが伸び放題で花咲かせてしまったので、摘み取ってきて飾ってみました。

いい香り〜。バジルってミントのような香りも混じっていて、気持ちがスッキリします。

最近アーティチョークの話題ばかり書いて(って言いながら、まだまだ話は完結していないのだけれど)イタリアの本の話が書けていなかったので、今日はバジルの香りに誘われて、以前読んだ本の中から、超人気作家Marco Mlvaldi(マルコ・マルヴァルディ)の「Odore di chiuso(密室の香り)」を ご紹介します。

(いきなりの宣伝なのですが、この本を訳したくて書いたレジュメがあります。もしブログを読んで興味を持っていただける出版関係の方がいらっしゃったら…ご連絡ください!!!!)

 

Marco Malvaldi " Odore di chiuso"

Sellerio editore 2011

ISBN:9788838925445

198p

*あらすじ*

時はイタリア統一まもない1895年。ある日、トスカーナはマレンマ地方の古城に暮らす男爵一家のもとに、かの有名な料理研究家ペッレグリーノ・アルトゥージと、写真家のチチェーリが招待客としてやってくる。ところが住人たちはそれぞれに問題を抱えているらしく、客人たちは歓迎されているのかいないのか、妙な空気に全員が居心地の悪さを感じている中、事件は起きる。執事のテオドーロが密室で毒殺され、まもなく男爵も銃で撃たれて大怪我を負ったのだ。犯人は一体誰なのか? 皆が互いを疑いギクシャクする中、アルトゥージは料理の小ネタを盛り込んだ独自の目線と持ち前の思慮深さで事件の真相を探り、警察が解決に向かって正しい方向へ進めるように手助けをしていく…

*著者について*

 マルコ・マルヴァルディ氏はイタリア・ピサ生まれの化学者であり、トスカーナの架空の街を舞台にしたユーモア溢れる作風のミステリーを書く作家。デビュー作"La briscola in cinque(5人ブリスコラ )"(2007)は、<ルーメ>という名のバールに集う愛すべきじいさん4人組と若いバリスタ、そして分署長が殺人事件を推理・解決していくというもので、マルヴァルディはこの作品で瞬く間にイタリアミステリー界の超売れっ子に。ちなみにバール・ルーメシリーズは8冊まで出て完結。本国ではテレビドラマにもなりました。

 

*感想*

この本を手にしたきっかけは、もちろんといえばもちろんなのですが「食」がメインテーマになっていたから。「これは私が読まずしてどうする!」というおきまりのミーハーアンテナ(何じゃそりゃ笑)に引っかかり、発売と同時に買ったのを覚えています。発売日は…2011年だからもう9年も前の話ですね、書いていてちょっとびっくりです。(話の舞台が19世紀なので、いつ読んでも内容に古さなどは出てきませんけど)

さてアルトゥージといえば言わずと知れた名著「料理の科学と美食の方法」ーイタリアの各家庭に一冊あるとかないとか言われるー元祖お料理バイブルの著者ですよね。

小説の中でももちろんこの本のことが出てきて、古城の貴族に招待されたアルトゥージは自身の著書のために新たな地方料理のレシピをゲットすることを楽しみしています。ところが、世間的には著書ですでに名声を得ているはずのアルトゥージも、過去の貴族的栄光にしがみついて生きている男爵家の人々のメガネを通せば「男なのに料理について書いているとかいう、太った怪しいおっさん」くらいにしか映らないという悲劇が冒頭から繰り広げられます(笑)

そんな、招待されたのに歓迎されていないというずっこける状況に加えて、事件が起きてからはろくな食事も取れなくって、美食家アルトゥージは悲しみまくります。それでもお料理豆知識を駆使して警察の推理を助け、きめ細やかな心使いで家族内の確執を解きほぐし、事件を解決に導いていくという、全体的にユーモア満載ながら、笑いだけでなくミステリーの筋立てもしっかりしているのがこの本の読みどころかなぁと思います。

お料理ネタの一例をご紹介すると、こんな「香り」にまつわるものも。執事の遺体が見つかった密室には、犯人のものと思しき尿が残されているオマルが隠されていた。そこでアルトゥージが「これはアスパラを食べた時の尿に見られる独特の匂いがする」と進言し、それが捜査の大きなヒントになる…というもの。いかがですか? あ、素敵な香りのお話じゃなくってごめんなさいね(笑)

他にも、「今日もお昼がちゃんと食べられなかった…」みたいなボヤキを日記に書くシーンとか、時々挿入される著者の声(場面解説)なんかもあって、そんなところも面白い小説です。

ちなみにミステリーにはいろいろなジャンルがありますが、マルヴァルディ氏の小説はどれもコミカルで風刺たっぷり、殺人は起きますがおどろおどろしい描写などはなく、「さすが化学者だけあるわ」と思うようなネタなんかもあってしっかり推理を楽しませてくれます。ちょっと横着かもしれませんが個人的にはコージーミステリーに近いのかな、と思うことが多いです。大好き。

あとアンドレア・カミッレーリのモンタルバーノ警部シリーズをコテコテの人情物とするなら、それよりももっとライト(スマート?)な感じ、かな。

 

さて、この本のことを書こうと思ったのには理由があって。

なんと最近、アルトゥージシリーズとして続編の二冊目が発売になったんです!

タイトルは "Il borghese Pellegrino" 。今度も密室殺人のようです。楽しみ〜。

また感想書きます。

 

 

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