先日、私の翻訳したいジャンルNo.1は「イタリアの食」です、と書きましたが、
実はクラシック音楽ネタの小説もやりたいジャンルのひとつ。
中学校でホルンを始め、大学でオーケーストラに入り、社会人になってからも市民楽団で演奏していたので、クラシックは聴くのも演奏するのも大好きなんです。
ということで、本日ご紹介するのはこちら。
“il violino noir”
「黒いバイオリン」Gabriele Formenti(ガブリエーレ・フォルメンティ)著
Bibliotheka Edizioni 刊
2017年
209p
ストラディヴァリのバイオリンをめぐって巻き起こるミステリーです。
時は1764年、フランスの人気音楽家ジャン=マリー・ルクレールが何者かによって惨殺され、彼のバイオリン(1721年製のストラディヴァリウス)が盗まれるという事件が起こる。その後、ルクレールのバイオリンは、その魔性の魅力に取り付かれた人々の手に次々と渡っていき、ついには1789年、建国まもないアメリカ合衆国のジョージ・ワシントン大統領のものとなってホワイトハウスに辿り着く。
それから3世紀後の2013年。サンフランシスコのオペラハウスで、人気の若手バイオリニストが毒殺され、楽器が盗まれるという事件が発生する。彼女の使用していたバイオリンは、あのルクレールのストラディヴァリウスだった。
サンフランシスコ警察のターナーとその部下ブリスは捜査に乗り出すが、事件を追ううち、その背景にある秘密結社が絡んでいるらしいことに気づく。そして二人の周辺では、事件に関わる人たちが次々と命を落としていき…
はたして盗まれたバイオリンは見つかるのか。なぜあの秘密結社はルクレールのバイオリンを欲しがるのか。そしてジョージ・ワシントンとのつながりは??
著者は1978年ミラノ生まれの音楽ジャーナリストで、これが二冊目の小説。
あとがきによれば、このストーリーの着想を得たのは、インタビューの仕事でバイオリニストのグイド・リモンダと出会ったことがきっかけだったそう。というのも、リモンダが使用しているバイオリンこそが、小説にも出てくるストラディヴァリウスの“ルクレール”で、その楽器に残されたジャン=マリー・ルクレールの血痕(といわれている。表紙の絵にみえてるやつですかね、黒い染み…恐)にまつわるリモンダの熱い妄想(?)トークを聞いて、小説のイメージが膨らんだのですって。
語り口はシンプルで読みやすい。警察官たちのボキャブラリーはちょっと貧相かな??なので、重厚なミステリーを期待する人には物足りないかもだけれど、音楽ジャーナリストだけあって音楽ネタの仕込みかたはうまいです。
クラシックファンへのお楽しみ的に「ストラディヴァリご本人によるバイオリン解説の章」なるものがあるのも、私にとってはツボだったな。(最初はなんじゃこりゃ、と思ったんだけど、ストラディヴァリ爺が何度か登場するうちに、だんだん楽しみになってきてw)解説内容としては、ヴァイオリンの各部位の名称から始まり、楽器のしくみ、ストラディヴァリウスがなぜ特別かということまでが語られるので、バイオリンのことをあまり良く知らない読者でも、この章があることで知識をもって物語に入り込めるんじゃないかなぁ、と思います。
ほかにも、実在する人物たちと史実がストーリーに巧みに取り入れられていて、しっかりどんでん返しもあり、最後の最後まで犯人は分からない。読後の満足感は高かったです。欲を言うなら、もうすこし細部を書き込んで、長編小説に仕上げて欲しかったなぁ。あっというまに終わってしまって…もっと読んでいたかったので。
さてここからは余談ですが。
ストラディヴァリの作った楽器は億単位の価値が付くことで有名で、“ドルフィン”とか“メサイア”みたいな超有名な楽器もあるけど、実はそれ以外にも、現存するストラディヴァリウスって600挺くらいあるんですよ、ご存知でしたか?すんごい多いですよね!
常に脚光を浴びている楽器がある一方で、それほど有名じゃない(もしくは個人所有なために公開されてない)ストラディヴァリウスもまだまだ世のあちこちにあって、いつか素晴らしい弾き手に出会うことを待っている…って思うとなんかドキドキするなぁ。
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